師匠と呼んで親しくさせていただいている「地酒みゆきや」の的場照幸さんにお会いしたばかりの2014年9月に書いた記事。このころはまだ一度しかお会いしていなかったため、何よりもまず漫画の似顔絵が似ていませんね……。

***

利酒師やライターになる前の学生時代から、おいしいお酒と肴を求めて日本全国をしばしば訪れていますが、別の目的のためにたどり着いたとある町で、偶然おもしろいお店に出会いました。

場所は和歌山県・新宮。

学生時代、同じゼミで文学を学んでいた仲間たちとともに、小説家・中上健次ゆかりの地であるこの地を訪れることが何度かありました。それ以来、個人的にこの土地のまとう空気が気に入り、「日本でいちばん遠い場所」(ともかく交通が不便!)であるにもかかわらず、卒業後もしばしば訪ねるようになりました。

2014年8月最後の週末、熊野本宮大社で開催される八咫の火祭りを楽しんだ翌日、速玉大社を訪れ、雨に濡れてよりいっそう危険度が増した超急勾配の石段538段の下から神倉神社の本殿を仰ぎ、電車が来るまでしばらくあるからどう時間をつぶそうかとうろうろしていたときに目に入ったのが、道路沿いの道に佇む一軒の酒屋さん。

基本的に酒屋を見つけたら入るようにはしているのですが、漫画にあるように、わたしはここで日本酒を物色するつもりはありませんでした。当時のわたしにとって和歌山といえば梅の名産地というイメージが強かったため、梅酒が好きな友人に一本手軽なものを買って行くか、と単純に考えていたのです。

ところが暖簾をくぐったら、目の前、人が一人ようやく立てるくらいの近距離にドーンと酒の棚が置いてある。その、お客さんの動線よりも明らかに酒を置くことを優先した店内の構造に、「このお店、おもしろそうだな」と思ったのですが(このとき外で待っていた友人を、きっとおもしろいに違いないから入れと引きずり込んだくらい)、何はともあれお土産を探すため、梅酒が並べてある棚を眺め始めました。

そこにやって来たのが、店長・的場照幸さん。わたしが「友達に梅酒をあげたいんですが、ちょうどよいものはありますか?」と尋ねると、力強いまなざしで

「今探しているお酒は、何が重要になりますか?」

と問われ、「あ、しまった、軽卒な聞き方をしてしまった」とすぐさま反省ました。

続いてわたしは、様子を探るために「お土産っぽさが伝わればいいんですが……」と続けると、的場さんは一つひとつの梅酒について説明し始めつつ、

「本当に“お土産っぽさ”を優先していいのか、飲み比べてみてください」

と、お猪口を差し出してくれました。

そして飲ませてくれた梅酒が、敢えてこの言い方をするなら、超! おいしかったのです。

梅酒は長期にわたって浸け込むという性質上、ホワイトリカーなどの蒸留酒で仕込むのが一般的ですが、わたしが飲ませてもらった「雑賀 梅酒」(九重雜賀)は日本酒で仕込んだもの。梅と日本酒両方のおいしさが楽しめるので、ロックや水割り、ソーダ割りなどではなく、ストレートで飲むのがオススメです。

超おいしいうえに、全く高くないので、的場さんが売り上げを目的としているわけではなく、ほんとうにおいしいものを勧めようとしてくれているのだということがよくわかりました。

こんなお酒のスペシャリストに、スイーティーな果実酒しか飲めない低度数アルコール消費型女子だとは思われたくない! となぜかムキになり、「オススメの日本酒を教えてもらっていいですか?」と思わず前のめりで尋ねるわたし。

そこで問われたのが、漫画にもある

「ビールはプレモル派ですか?スーパードライ派ですか?」

という質問でした。

これは、香り高いもの(プレモル)が良いのか、スッキリ飲みやすいもの(スーパードライ)が良いのか、お客さんの好みを判断するための問いなのだそうです。

そのほかにもどんな日本酒を求めているのかを調べるために、

「日本酒だけで楽しみますか、それとも何か食事しながら一緒に飲みますか」

「肴はどんなものですか。さっぱりした刺身なのか、煮物のような味の濃いものなのか」

などなど、さまざまな質問をされました。

「すごい……こうやって一人ひとりのお客さんにピッタリの一本を提案するんだ……!」と感動しながら、わたしは飲み意地を張って全パターン飲みました(質問の意味がない……)。

ちなみに、「口の中に前の酒が残ってるから、いまからちゃんと次のお酒を味わうために」と、うがい用のウーロン茶をくださるという徹底ぶりです。

遠方から来たらしい小娘が一口飲んじゃ感動し、一口飲んじゃ感動しと来るものだから、的場さんも美味い酒伝導師の血をかき立てられた様子で、

「じゃあ、いまから幻のお酒を飲ませてあげます。買えとは言いません。なぜなら買えないから。東京に戻って、こんな酒を飲んだとみんなに自慢してください」

と、常連客でも30ポイント(一升瓶1本で1ポイント)集めなければ手にする権利がないという超レアなお酒を一口、味わわせてくれました。

それが、高垣酒造「龍神丸」

数年前に杜氏であるご主人が亡くなってしまいましたが、現杜氏である奥様が周りの人々の助けを受けながらなんとか立て直し、最高の評価を得られるお酒を生み出したという、ストーリーのあるお酒です。

どうですか、と問う店長さんに

「わたし、おいしい日本酒って、とってもおいしいお水に、お米のいちばんおいしいところだけが溶けているような、透明感のあるお酒だと思うんですが、これはそれですね」

と言うと、手をブンブン振りながら

「それなんですっ!!!その表現、いただきました!!!今度から使わせてもらいますわ!!!」

と、共感してくださいました。

最終的にわたしがお持ち帰りしたのは、先ほど紹介した「雑賀 梅酒」と、「黒牛 無濾過生原酒」(名手酒造店)。

何よりもこのお酒を売ってくれたときに、的場さんが

「このお酒はまだ若いから、キャップではなくラップなどで封をして、少し酸化させてあげるとよりいい味になりますよ」

と教えてくれたことに衝撃を受けました。

なぜなら、日本酒というのはとてもデリケートなお酒で、鮮度を保つのが重要であり、冷暗所で保管し、開封したらなるべく早めに飲みきることが原則だと思っていたからです。それが、少しの熟成をさせることで、より味わい深くすることができるとは……。

自分にあるのが単なる机上の知識でしかなく、お酒を知るためには、教科書ではなくお酒そのものにこそ触れる必要があるのだと痛感。いや反省。

そんな大切なことを教えてくださった的場さんのことを、わたしは勝手に「師匠」と呼ばせていただくことに決めたのでした。

このお店の名前は、「地酒みゆきや」

公共交通機関の時刻表を見るたびに絶望するような“日本でいちばん遠い場所”、ではありますが、たとえ片道数万円・数時間をかけてでも行く価値のあるお店だと思います!

 

SHOP DATA
住所:和歌山県新宮市神倉4丁目5-11
TEL:0735-23-1006
営業時間:10:00~19:00、火曜定休
http://www.sake-tori.com/

 

English Version

One thought on “師匠との出会い:日本でいちばん遠い酒屋さん”

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *